Vol.7 デンマークの選手育成

「小国」の工夫

デンマークは北欧諸国の中でも最も南に位置し、比較的温暖な環境にある。国土は日本の九州より少し広い程度であり、人口は約580万人。まさに、「小国」と言っていいだろう。
デンマーク・サッカーは、1980年代まではオリンビックでの好成績はあったものの、それ以外の国際舞台においては目立った活躍はないに等しかった。
それが、1984年には久方ぶりに出場したヨーロッパ手権で3位になり、1986年には7大会ぶりにワールドカップ出場。このときは『ダニッシュ・ダイナマイト』と呼ばれる攻撃的なサッカーで旋風を起こした。
そして、1992年のヨーロッパ選手権では、旧ユーゴスラビアの代替出場ながら優勝し、その存在を世界に知らしめた。その後もワールドカップやヨーロッパ選手権の常連と言っていいも存在となり、2020年６月現在のFIFAランキングで10位に位置している。
1980年代までも国内におけるサッカー人気は高かったが、国際大会でここまでの成果を残せるようになった背景には、デンマーク・サッカー協会(以下、DBU)を中心としたグラスルーツの試みがある。
デンマークでは、エリート選手の強化ももちろん進めたのだが、それ以上に、サッカー人口を増やすために多くの試みを行なった。グラスルーツ(草の根=底辺レベル)に特化した活動を展開した背景には、サッカーのエリート教育を行なう上でも、有能な人材がサッカーの世界に入ってこなくては強化を図ることはできないという考えがあったようだ。
1990年以降にDBUが中心となって進めてきたグラスルーツのプロジェクトの結果、1980生代まで減少傾向にあったサッカー人口が増加傾向に転じた。もちろん、プロジェクトを立ち上けた時期にラウドルップ兄弟(ミカエルとブライアン)やGKピーター・シュマイケルなどのスター選手の台頭やヨーロッパ選手権での優勝で人々の注目がさらにサッカーに集まったことも理由の一つにあるだろう。
現在では、デンマークのトップリーグに属する選手の多くがこのグラスルーツのプロジェクトを経験している。このプロジェクトから育った選手の多くは、サッカーを楽しみたいという気持ちを持っているのも特徴だ。

デンマークのプロジェクト

DBUが1980年以降取り組んできたプロジェクトは、ＪＦＡ(日本協会)が試みているキッズプログラムと共通する部分が多い。主な内容は以下の通り。
■DBUsFodboldskole(OODサッカースクール)：年に数回、全国各地で行なう短期のサッカースクール。通常は5日間のコースとなっている(詳細は後述)
■DBUsMik「ofodboldskole(ODD マイクロサッカースクール)：「サッカーの入り口」にいる小さな子供たちへ向けたプログラム。基本的に週末に開催している。サッカーに特化したプログラムではなく、その他の遊ひの要素を含めたプログラムとなっている
■McDonaldsFodboldCup(マクドナルドカップ)：マクドナルドがスポンサーとなっている子供向けの大会。勝敗よりもサッカーをエンジョイできる雰囲気作りをしている
■TheGirlRocket(ガールロケット) ：女子を対象にした普及プログラム。「ロケット」という名がついているのは、宇宙服を着てサッカーを行なうから。女の子にとってサッカーの世界はなかなか入りづらいものでもあるが、その壁を越える工夫を施している
以上の4つのプログラムが中核を成すサッカースクールとして活動を展開している。日本でも『Denmark FUNサッカースクール』として毎年1回開催されている
これらのプログラムの中む人物にいるのがヤン・M・ハンセン氏である。彼は、これらのプログラムをプライベートで展開していたのだ。

「遊び」の重要性

そして、彼のユニークな視点に目をつけたDBUは、彼を協会の正式なスタッフとして招き入れ、彼のプログラムを中心に展開を図ったのである。そのきっかけは、DBUの方針がテクニカル面を重視するものに偏りすぎてしまい、サッカーの根本である遊びの部分を忘れてしまっていたことにあった。
ハンセン氏とともに活動を本格化させたDBUは2021年現在、31万人が選手登録するまでに至った。日本の人口(約1億2550万人)と協会の選手登録者数(約83万人)を見れば、その数の重みが際立つと言えるだろう。
では、どのような形でこれらの活動は進められたのだろうか。
第一の目的は、低年齢層の子供たちにサッカーの世界に足を踏み入れてもらうことだ。そして、サッカーに触れることで次のレベルアップを図りたいと考えているようだ。

①サッカーを上達させる

②子供たちが丈夫な体を作るきっかけを作る

③成功へチャレンジし、成し得たときの喜びを与える

④サッカーを通した社会経験を行なう

文：ファンルーツアカデミー