vol.3 サッカーの魅力

 サッカーの魅力は、技術や戦術もありますが、子どもたちに必要な教育的要素が多く含まれていることもひとつです。発想力、規律、自己責任、忍耐、そして語学。その他にも数えきれないほど挙げられます。
 仲間と常に協力をしながらこれらの要素を高めていくことは、社会性を養い、情操教育の上でも非常に大切です。しかし、このように多くの可能性を秘めているサッカーにおいても、最近では子どもたちの発想力を無視した指導を行っているケースをよく目にします。
 子どもたちの発想力を育てることをおろそかにしてしまい、型にはまった指導を行っている結果が、「クリエイティブな選手が少ない」という指摘になるのではないでしょうか。その源流をたどると、ジュニア年代に「クリエイティブな発想」を育て上げる環境が貧困であることにつながるのだと思います。
 確かにエリート教育なども非常に重要です。これまでフランスやイングランドなどのサッカー先進国でもエリート教育で結果を出してきました。しかし、選ばれた子供たちが切磋琢磨しながらトレーニングをする以前に大切なこともあると思います。それは子どもたちに「サッカーに対するマインド(心)」を植え付けることです。


サッカーマインド

 「サッカーはPLAY(遊び)であり、常にFUN(楽しさ)が伴っている」と子どもたちに感じしてもらうことが必要なのです。子どもたちにサッカーマインドの種を蒔く役割を担っているのが、ジュニア年代のコーチだと思います。考え方によってはジュニア年代のコーチこそが日本サッカーを強化するために一番責任のあるポジションにいるのかもしれません。
 多くの子どもたちがプロサッカー選手を目指しますが実現するのはごく僅かです。名門大学以上にハードルが高いものです。残念ながら挫折してプロになれなかった選手には、サッカー選手としてのポジティブな成績や評価はされません。では何が残るのでしょうか。それが「マインド」だと思います。
 欧米のサッカー先進国と言われる国々がすべてだとは思いませんが、私が欧州で感じたことは、サッカーの理論で日本は世界に負けていないということです。逆に、いろいろな国々の情報を入手しやすく、勝っている部分も多いのではないのでしょうか。
 では何が違うのかというと、「サッカーに対する考え方」だと思います。イングランドでもドイツでも、老若男女問わず人々はサッカーを楽しんでいる点です。60歳になっても「オーバー60」のリーグでプレーしていたり、週末はサッカークラブにあるバーで1日を過ごしたり、お気に入りのチームの応援に行ったりと、それぞれがサッカーの楽しみ方をよく知っているのです。人生においてどこかのタイミングで「サッカーを楽しんだ」経験があるからこそ、このように生涯を通じてサッカーを自分なりに楽しめるのではないでしょうか。
 日本が本当の意味で世界の強豪国となり、優れた選手が生まれるためには、このようにグラスルーツの土壌が豊かになることが不可欠だと考えています。そのために必要なことは、まずはジュニア年代の子どもたちに対してサッカーを生涯の友にするための「サッカーマインド」を植え付けることだと思います。コーチは子どもたちがこれから歩む、60年以上のサッカー人生のスタート地点にともに立っていることを常に心に留めておかなくてはなりません。
 そこでコーチに求められるのが、子どもたちに対する「観察眼」を育てることです。また、技術面にとらわれて型にはまった指導を行うのではなく、子どもたちが自らの意志で自分を表現できる環境づくりが大切なのです。
 シュタイナー教育の考え方の1つに、「答えを知ることではなく“どうしてだろう?”という疑問を大切にする。そして、その疑問を一生かけて考えよう」というものがあります。私はこの考えこそ、ジュニアサッカーのテーマの1つになると思います。疑問があるということは、常に何かから刺激を受けているといえます。刺激を受けるということは、何かに向かってチャレンジをすることにつながるのではないでしょうか。このような姿勢を持つことは、子どもたちが疑問に対して自発的に動くキッカケになると思います。

2024.05.01 by Jun Hirano / Funroots



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